ギャラリーTOMの建物の中。細長の小窓が並び、小さな教会のようになっています。


【今回の旅行・観光・お出かけスポットの目次】
① 人の心に響く建築を体感!
② さわるという、自分の感覚が重要だと感じさせてくれる場所。
③ インタビュー「互いの考えをシェアすることで、互いの学びになる。」

のどかな公園の池。
ボクは公園のベンチに座り、周りの住宅を眺めていました。

ここは京王線・神泉駅周辺。
ギャラリーTOMという視覚障がい者に美術を味わってもらうというコンセプトでつくられた画廊にやってきました。

神泉駅周辺は多くの歴代総理大臣が暮らし、渋谷の近くでありながら閑静な住宅街が広がっています。
ギャラリーTOMはその一角。大きな公園のそばにありました。

入ってみると、担当の中山二郎さんが迎えてくれました。


中山さんはフランスに40年近く住み、現代美術をされてきた方なんだとか。

そのような方からお話を聞けるとは、ワクワクしますね。




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① 人の心に響く建築を体感!
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さっそく鑑賞!

・・・と、その前に、建物を見せてもらうことに。

なんとギャラリーTOMは、渋谷の再開発プロジェクトに携わる内藤廣という有名な建築家が初めて手掛けた建物なんだとか。
わざわざ建築を見に訪れる方も多いそうです。

ギャラリーTOMの外観。建物探訪に出てきそうな建築です。
「榎戸さんは建築がお好きなんですよね?」
中山さんは、ボクのCOTRAVELのプロフィール欄を見て、案内を申し出てくれたのでした。

が、しかし!ちょっと待ってください!!
ボクの好きは、「なんとなく見るの好き」ぐらいのレベル。「好きなもの建築って書いた方がオシャレに見えるし。グヘヘヘ」って下心もあった。

到底フランスで現代美術をしていた人と話せるレベルじゃない。

「は、はい・・・」とあいまいにうなずき、話をはぐらかすおじさん。
かっこつけるもんじゃないなと反省させられます。

建築というのは、大切なことを教えてくれますね。


上の階へ行くと、丸みのある壁に縦長の窓ガラスがぐるりと並び、天井もガラス張りに。



小さな教会や聖堂のような、神聖な雰囲気ですね、

そこからバルコニーへ。

コンクリート造りのバルコニー。ベンチなどもコンクリート性ですが、やわらかみがあります。
バルコニーはコンクリート造りで、開放感のある雰囲気です。

「ぜひ、壁にもたれてください」と中山さん。
手すり壁を背にしてみると・・・


「おー―――!」
背中を包むような優しい感触。少し斜めっていて、全身を投げ出せるような感覚です。そのまま空を見上げると、優雅な気持ちに。

今度はバルコニーのベンチに座ると、とっても落ち着きます。
読書しにくる人もいるとのこと。

住宅街なのに、空を間近に感じるような気持ちになります。

なんでだろうか?
中山さんに伝えると、
「それが建築、空間の持つ力だと思います。図面だけでは感じられない、開放感や、広さ、人の体に訴えかける何かがあるんでしょうね」

人の体、人の心に響く建築を体感したおじさんでした。

視覚障がいの学生が作った鳥の彫刻。羽が2つあるのが特徴的。
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② さわるという、自分の感覚が重要だと感じさせてくれる場所。
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さて、いよいよ作品鑑賞!

訪れた際は、歴代の盲学校生の作品が展示されていました。

かわいい感じの鳥の彫刻。目がくりっとしています。
これは宮沢賢治の『よだかの星』に登場するよだかをイメージして作った作品。

中山さん「作中で、よだかは醜い(みにくい)とされています。が、醜いって想像が難しいですよね」

言われてみると、美女・美男、喜怒哀楽などよくデフォルメされる顔・表情はイメージしやすそうですが、「醜い顔」は難しそう。

人間には描かれやすい顔と描かれない顔があるんですね。

こちらはトロフィの彫刻↓↓

上がもさもさっと円状になっていて、下部分の土台部分はねじれた曲線を描いています。
なんでも堀内正和という日本でも有名な彫刻家が作ったものなんだとか。

さわってみると、なんともいえない曲線。
下から上へエネルギーも感じます。
「美しい感触ですね・・・」
ついついつぶやくボク。

中山さんが「え?」と反応。
つぶやきを聞かれ、ちょっと恥ずかしくなるおじさん。

中山さんがさわり、「あ、たしかに、この感触って美しいですね」と共感してくれました。

ボクはうれしくなると同時に、ハッとなりました。
手の感触を述べることに恥ずかしさを感じる自分を発見したためです。
「一般的な感想=視覚的な感想、を言わなくては。」と無意識に思っているのだと。

中山さんが続けます。
「さわらないと気づかない視点ですね。話してくれたからこそ、自分も気づけました」と。
本当にうれしい言葉です。
「視覚障がい者らしい発言」が他人の価値になると体感できたためです。

自分を受け入れてもらったような、認められたような気持ちになります。

最後にこんな彫刻も↓↓

メダル。両手をパーの状態にして何かを触るような手の彫刻が施されています。
視覚障がい者用に作られたメダルです。

視覚的には柔らかみのある優しい手です。
が、さわってみると・・・

榎戸「骨ばってて、怖くないですか?」
中山さん「え?あ、ほんとですね。僕も今さわって初めて気づきました」

再び手触りを話す重要性を感じるボク。
中山さん「茶碗などを作る時も、目で見るだけではなく、しっかり手でさわってたしかめるそうなんですよね。だから、感触って本当は大切なことなんです」

感触の美的感覚は、古来大勢の方が大切にしてきたものだったんですね。

ここは自分の感覚が重要なのだと感じさせてくれる場所でもありました。


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③ インタビュー「互いの考えをシェアすることで、互いの学びになる。」
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最後に中山さんにインタビューをさせてもらいました。

榎戸「視覚障がい者用の展示は、普段どれぐらいされているんでしょうか?」
中山さん「実は視覚障がいの方に向けた展示が現在少ない状況になっています。申し訳ない気持ちですね。
世界的に画廊がつぶれ、うちも経営が厳しい状態です。なので、特化しての展示がやりにくくなっているんですよね」

榎戸「なるほど。では一般的な展示の際など説明をお願いできるのでしょうか?」
中山さん「そうですね。お話はさせてもらっています」

榎戸「美術館って「静かにしてください!」というルールが強いので、お話をしてもらうだけでも有難いですね」
中山さん「そうですね、日本では『ルールは何のためにあるのか?』よりもルール自体が大切になっていますよね。日本の美術館も『静かにする』というルールが強力になっている。本来、視覚障がいの方が訪れた際などにお話しするのは当たり前だと思うんですけどね」

榎戸「お話を聞かせてもらうって、貴重な体験ですよね」
中山さん「はい。それに、東京は知らない人とあまり話をできない都市だと思うんです。
だから、そうではない場を作って、その空気を壊していきたいとも考えています。お互いの考えをシェアすることで、互いに学びもありますしね」

―――お互いの考えをシェアすることで、互いの学びになる。―――
やはり、ここは自分の視点も価値になると感じさせてくれる場所なのだなと改めて思い、今回の取材を終えたのでした。


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施設の概要
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▼ギャラリーTOM HP
https://www.gallerytom.co.jp/

▼次回展覧会情報
村山亜土 没後20年 「村山亜土、柚木沙弥郎との出会い Ado with Sami」展
6月11日(土)~7月24日(日)まで、12:00 - 18:00
月曜日は休館(7月18日は開館) https://www.gallerytom.co.jp/


▼周辺の旅行記


・【白杖おじさん放浪記】全国の地元めしを楽しめる都内店 渋谷編
https://www.cotravel.jp/diary/index.php?uniqueid=5eedb2cc660cb

男性/30代 視覚障害

東京都青梅市出身、練馬区在住の榎戸 篤(えのきど あつし)です。
テレビ番組の制作会社で働きながら、ライターをしています。

【障がい】
・視力は左0.04、右0。
・3歳の時、保育園で転んでケガをし、弱視に。
・現在は、白杖・単眼鏡を持ったり持たなかったりしながら、ふらふらしています。

【好きなモノ】
つけ麺/お酒/建築/読書/フロアバレー/ニュース

【執筆媒体】
・障がい者ライフスタイルメディア「Media116」
http://www.media116.jp/

・働く×障がいがテーマのコラムサイト「パラちゃんねるカフェ」
https://www.parachannel.jp/column/author/163/
など。

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uj092021@yahoo.co.jp

記事は、ひとつひとつを丁寧に、懸命に、心をこめて・・・書かせていただきます!

旅行エリア
関東, 東京都, 渋谷区
旅行期間
対象読者
視覚障害 発達障害 精神障害 高齢者 マタニティ 乳幼児連れ 補助犬ユーザ その他
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