【長岡花火とは】
「長岡花火」は、新潟県長岡市の夏祭りである「長岡まつり」の目玉となる大規模な花火大会です。
8月2日・3日に信濃川の河川敷から打ち上げられ、その数は2日間で2万発にのぼります。
ですが、長岡花火の特徴はその華やかさだけではありません。
長岡の町は、1945年の長岡空襲や2004年の新潟県中越地震など、度重なる試練を乗り越えてきました。
長岡花火には、戦争で亡くなった人の慰霊と復興に尽力した先人への感謝の想いが込められているのです。
【7月】
7月の中頃から、長岡市内の小売店の売り場では北島三郎さんが歌う「大花火音頭」が流れ始めます。
サブちゃんのこぶしが聞こえてくると、地元住民は「夏が来たなぁ」「もうすぐ花火だなぁ」と実感し、ワクワクします。
みんなが花火大会当日に向けてスケジュールを調整しつつ、天候に恵まれるよう祈ります。
【8月1日】
花火大会の前日は長岡まつり初日の「平和祭」が行われます。
19時、空襲という悲劇の舞台となった柿川に、鎮魂の灯篭が流されます。
夜が深まり、空襲が始まった時刻の22時30分。
真っ白な花火「白菊」が3発打ち上げられます。
悲しくて美しい、慰霊と平和の祈りです。
【8月2日・3日】
いよいよ花火大会当日。
朝からソワソワしてしまいます。
わたしたちがいつも利用している長岡花火の無料観覧席は、打ち上げ場所から少し離れた信濃川の土手周辺です。
(5月に発売される有料の観覧席もあります。
有料観覧席には車椅子対応エリアが設けられています。)
見やすい場所に座れるよう、15時過ぎには準備を整え出発します。
花火会場へは公共交通機関や自転車、もしくは徒歩で向かいます。
盆地である長岡の夏は蒸し暑く、わたしはいつも、花火会場へ着く前に力尽きそうになります。
日頃の運動不足を悔やむのも、毎年のお約束。
無料観覧席の中でも、打ち上げ場所や有料観覧席に近いエリアはとても混雑します。
そのため、発達障害があり人混みが苦手なわたしは、混雑の中心よりやや外側で観覧するよう心がけています。
お気に入りのポイントは信濃川右岸、赤い水道タンクの塔が目印の「水道公園」周辺。
レジャーシートを使い、脚が伸ばせる程度の最小限の面積を確保します。
17時を過ぎると、仕事を終えた人たちも続々と集まってきます。
そろそろ、持ってきたおつまみを食べ始めましょうか。
冷凍の枝豆はちょうど食べごろ。
そして、夕焼けがとてもきれいに見えます。
【花火大会開始】
19時になる少し前から、会場には注意事項のアナウンスが流れ始めます。
それから、いよいよ打ち上げ開始です。
最初の花火が無事に咲いたとき、わたしの心は「今年も8月2日を迎えられたなぁ」という静かな感動に包まれます。
昔から変わらない、ちょっとレトロなアナウンスの調子にも、懐かしさと安心をおぼえます。
ここから、1日あたりおよそ40もの花火のプログラムが次々と打ち上げられていきます。
一連のプログラムの間にも、単発の一尺玉などの花火がぽん、ぽんと上がるので、飽きる暇がありません。
きれいに上がったら、スポンサーと花火師さんに拍手。
迫力満点の長岡花火は「目で見て楽しむ」「音を聴いて楽しむ」「体に振動を感じて楽しむ」という、いくつもの楽しみ方があります。
近年はテレビで中継されるようになり、世界中の皆さんと花火の映像を分かち合えるようになりました。
しかし、体に響く「どーん!」という感触は、生でしか得られないもの。
皆さんにもぜひいつか、味わってもらいたいなぁ。
花火は伝統を守っているだけでなく、技術の面で年々進化しているそうです。
水色やピンク色など、色の数が増えたほか、細かな装飾や時間差の技がさえています。
最近の花火は、わたしには「解像度が上がった」ように感じます。
(てんかんのある方は、光の点滅にご注意ください)
そして、20時を過ぎた頃、長岡花火のシンボルとも言えるプログラムの順番がやってきます。
そう、「新潟県中越大震災復興祈願花火 フェニックス」の打ち上げ開始です。
ざわついていた会場が一瞬の静寂に包まれ、「Jupiter」の歌い出しが暗闇に響きます。
やがて9カ所から光の矢が放たれ、少しずつ上昇していきます。
そして、クライマックスには、オレンジ色のリボンのような「フェニックス」が羽ばたきます。
その姿はまさに、空襲で焼け野原になっても、地震で多くを失っても、何度でも立ち上がってきた長岡の町そのもの。
自然に涙が込み上げます。
帰り道の混雑を避けるなら、フェニックス花火が終わったタイミングで退場するのがおすすめです。
しかし今回はせっかくの機会なので最後まで楽しみましょう。
プログラムの最後には、花火師さんによる「匠の花火」が打ち上げられます。
その後にはわたしたち観客から花火師さんに、光を使ってお礼のメッセージを送ります。
思い思いに揺れる、懐中電灯やスマートフォンの光。
これは花火に劣らず美しく、長岡らしい景色です。
幻想的な花火の時間が終わり、わたしたちは現実に戻ります。
眠い目をこじ開けて、安全に帰りましょう。
ゴミは残らず持ち帰ります。
そう、長岡花火は「日本一マナーの良い花火大会」を目指しています。
【未来に向けて】
「来年もまたこの場所で花火を観よう」
そんな希望は、突然やってきた感染症に断ち切られてしまいました。
長岡花火の無い夏はとても静かで、なんだか夏じゃないみたい。
しかし、感染が収まり、住民と観客の安全が守れるようになれば、長岡花火は必ずよみがえります。
復活した長岡花火を皆さんがテレビやインターネットで目にしたとき、この体験記を思い出して身近に感じていただければうれしいです。
フェニックスの火を絶やさぬために、わたしもできることを探し続けます。
長岡花火
https://nagaokamatsuri.com/
※記載の内容は2019年時点のものです。
2020年および2021年の長岡まつり大花火大会は中止となりました。
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