ボクは背筋を伸ばし、両手をぎゅっと握りしめ、ある人を待っていました。
ここはJR青梅線・昭島駅。
「視覚障がい者が通うボクシングジムがある」という噂を聞きつけ、やってきました。
ジムに連絡すると、代表の方が駅まで迎えに来てくれることに。
せっかくなので、その方の情報をネットで検索。
すると・・・
「元 日本ライトフライ級1位 村松竜二」
の文字が。
元 日本ライトフライ級1位!?
そして、その名前。
竜・・・
亀田兄弟みたいな、こわもてな人を勝手に思い浮かべるボク。
ボクは、改札前でぶるぶる震えていました。
すると、「村松です~」と、ささやくような、スイートボイスが聞こえてきました。
見ると、ニコニコした男性が。
この男性がD&D BOXING GYM会長の村松竜二さんでした。
ギャップがものすごい・・・
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① 障がい当事者が通う、「D&D BOXING GYM」
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ジムに行く道中、村松さんに話を聞いてみました。
このジムは、視覚障がい者だけではなく、肢体不自由の方、精神障がいの方なども受け入れているんだとか。
そして、視覚障がい者が行う「ブラインドボクシング」にも力を入れているとのこと。
ブラインドボクシング®️(以下、ブラインドボクシング)とは・・・
選手はアイマスクをし、トレーナーがつけた鈴の音を頼りにパンチを出す。
また、ガードの型を披露する競技なんだとか。
打ち合うわけではないので、安全です。
「日本初、世界初の競技」とのことです。
下記、紹介ビデオのリンクです。
▼パラスポーツ体験レポート ー【ブラインドボクシング】やってみた #1 -
https://youtu.be/9vAuUzx20UU
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② こんなに複雑だった!ボクサーのフォーム
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さて、ジムに到着。
村松さんが構えを教えてくれることに。
足は左を前に、肩幅より少し広く開く。
打つ手はこぶしをひねりながら出し、打たない腕で体をガード・・・
「え?え?え???」
たった一つの動作に、やることが多すぎる。
混乱したボクは、パンチすると同時に、ジャンプするという奇行を演じる始末。
しかし村松さんはさすが。
おバカな動きを繰り返すボクに、手取り足取り教えてくれます。
「足を肩幅より少し広く開くのは、相手に打たれても、バランスを崩しにくくするため」
「打つこぶしは、途中まで力をいれず、当たる瞬間だけ力を入れる。すると、スピードが速いパンチが打てる」
ひとつ一つの動きの理論も教えてもらいました。
こんなにボクサーの姿勢が複雑で、奥深いとは。
解説してもらって、初めて分かったことでした。
その後、なんとか基本姿勢を学び、ミット打ちをさせてもらうことに。
正しいフォームでパンチを打つと、パン!と乾いた音がなります。
これが、なかなか快感です。
良いパンチか、そうでないかが音でわかるので、これは視覚障がい者も楽しめますね。
「視覚障がいのスポーツ選手は、どうフォームを学ぶかがミソ」とよく聞きますが、その意味が少しわかったような気がしました。
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③ 白杖おじさん、初のリングへ。
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「榎戸さん、スパーリングやってみましょう」
と、村松さんが声をかけてくれました。
「無理です!」と、断りたくなるボク。
数行前、「これは視覚障がい者も楽しめますね」とか、ちょっとエラそうに書いたものの、周りの方との実力差は明らか。
みなさんのパンチは、
「パン!パン!パン!パン!パーーーン!!」
と、リズミカルに乾いた音を響かせています。
それに比べ、ボクは
「パン!スカッ! ん?!えい!スカ!あれ?ポン・・・・」
といった感じ。
一人でリングになんか、上がれるはずない!
自立を拒むおじさん。
しかし、せっかくなので、やらせてもらうことに。
リングに上がると、「テレビで見てたとこに、今いるんだー!」と、やはり興奮しますね。
アイマスクをつけ、スタート。
鈴の音を追って、パンチを打ち込むボク。
しかし、なかなか当たりません。
なかなか難しい。
そして、驚いたのがこのリングの広さと時間の長さ。
正直、テレビでボクシングを観て、「リングって狭いよなー」「1ラウンド3分って短いよなー」とか、思ってました。
しかし、逃げる相手を追っかけて、必死にパンチを繰り出す。
それが本当に大変なことだと痛感します。
正直、1分のコールを聞いた段階で、息が切れ、足が進まなくなっているボク。
この時間と広さの感覚は、リングに上がらないとわかりません。
息も絶え絶えのボク。
しかし、パンチを打つと、トレーナーさんたちが「えーい!」と盛り上げてくれます。
「殴ってやる!」という動物的な本能に火がつきます。
そして、パンチが見事当たったときの「おっしゃ!とらえた!」という感覚。
ものすごい気持ちいい!
最後フラフラになりながらのタイムアップでしたが、日常奥に潜む自分の感情をパッと出せたような、爽快な体験でした。
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④ インタビュー「右手一本で戦い続けたボクサーが、次に見る夢」
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そして、会長の村松竜二さんにインタビューをさせてもらいました。
Qなぜ障がい者と関わるようになったんですか?
村松さん「私は30代のはじめまでプロボクサーをしていました。
引退したのち、イベントでリングに上がり、その興行収入を児童養護施設に寄付していたんです。
でもある時、思いが変わり、自分がリングに上がって輝くんじゃなくて、子どもや障がいのある方を輝かせることで自分が輝くんじゃないかなって思ったんです。
それで、子どもたちの育成活動を始め、その後障がいのある人たちの支援も行うようになったんです」
Q脚光を浴びるボクシング選手から一転、人に光を当てる側に回った。そんな村松さんは、どんな現役選手だったんでしょうか?
村松さん「私はライトフライ級1位という成績でした。
ボクシングでは、1位の上にチャンピオンがいるんです。
私は日本タイトルマッチに4回挑戦しましたが、ベルトを巻くことはできませんでした」
Qとはいえ、1位まで上りつめた。ということは、盤石な現役時代だったのではないですか?
村松さん「いえ、プロを始めた直後に交通事故にあいました。ひき逃げだったんですけど。バイクで転倒して、左手が使えなくなってしまいました。
だから、ボクシングはほとんど右手一本でやってました。
現役の終盤には、試合で目を負傷し、今でも右目の半分は見えないんです」
右手一本でつかんだ1位。
しかし。しかし。
『左手が使えれば。』と思ったこと、
悔しい思いをしたこと、
挫折しそうになったこと、
そんな体験を何度も味わったのではないか―――
ボクはそう、想像しました。
「何度もね」村松さんが続けます。
「何度もね、『もうやめたら?』『あきらめな』と言われたこともありました。
自分も、もうやめようかと思った事もありました。
でも、自分は『世界チャンピオンになりたい!』『チャンピオンになるんだ!』、その一心で、戦い続けたんです」
村松さんは、「サポートさえあれば、障がいがあっても社会で活躍できる」と話します。
障がいがありながら戦い続けた、その村松さんの語ることだからこそ、重みがある言葉です。
Q最後に、このジムを、どんな場所にしていきたいですか?
村松さん「私は人間って自信が大事だと思ってるんです。それは何かを続けることで得られると思うんです。
障がいのある方が、そんな自信をつけられる、居場所だと思える、そんな場所を作りたい。そう思っています。
そして、障がい者と健常者の壁を無くす事。それも目的としています」
取材を終え、駅まで一緒に帰る道中、村松さんがポツリとつぶやきました。
「こうやって、一緒に歩かせてもらうこと。それも自分は好きなんです。
何か自分も人のお役に立っているのかなと思えるんですよね」
『子どもや障がいのある方を輝かせたい』―――
そんな村松さんの戦いは、続いています。
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施設の概要・バリアフリー情報
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▼施設の概要
D&D BOXING GYM
<営業日>毎週土・日
<アクセス>JR青梅線・昭島駅南口より徒歩3分
<連絡先>TEL・090-3903-7174 MAIL : tippi-together-.-@docomo.ne.jp(いずれも、マネージャー岡部泉生さんのもの)
<住所>〒196-0015 東京都昭島市昭和町5丁目6−3
<料金>
デイ会員・・・男性 1,500円/回 女性・子供(中学生以下) 1,000円/回
週1月謝会員・・・男性 5,000円/月 女性・子供(中学生以下) 3,000円/月
週2 月謝会員・・・男性 8,000円/月 女性・子供(中学生以下) 6,000円/月
障がいを持たれている方:デイ会員・・・男性・女性 1,000円/回 子供(中学生以下) 500円/回
<HP>
https://peraichi.com/landing_pages/view/ddgym0207
※最新情報など必ずHPなどでご確認ください。
▼村松さんのPV
https://youtu.be/Sgg5YkulzFM
※村松さんの人柄、ブラインドボクシングへの熱い思いが伝わる動画です!ぜひご覧ください!!
▼村松さんが代表理事をつとめる一般社団法人B-boxのランディングページ
https://b-box-dragon.tokyo/
※村松さんについても、わかりやすく書かれています。ぜひご覧ください!!
〇視覚障がいポイント
・ジムの方が、駅まで徒歩での送り・迎えをしてくれます。
・ジム内は、少し煩雑ですが、明るいため見やすいです。
・段差は、ジム前・更衣室・リングに少しあり(ただ、ジムの方が作ったスロープなどあり)
・障がい当事者の受け入れ多数あり。(ジムは、ブラインドボクシングの関東支部になっています)
・フォームなどの指導は、フォームを触らせてくれたり、手でフォームを直してくれるなどして教えてくれます。
・村松さん・トレーナーの方、皆障がい理解に熱く、親切です。
※「バリアフリーの設備を整えるのに限界があるので、心のバリアフリーで対応しています」とのことです。
▼写真引用
インタビュー中の村松氏の写真は、村松竜二氏およびD&D BOXING GYM提供
▼イラスト引用
イラストAC
https://www.ac-illust.com/
注
写真で会長・スタッフの方と筆者の距離が近く見えるものがありますが、できる限りの距離をとり、マスク着用、消毒、短時間など、新型コロナ対策を行ったうえで取材をしています。
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