馬にまたがる白杖おじさん


【今回の旅行記・おでかけの目次】
① 視覚障がいでも安心か? サイトウ乗馬苑のこだわり
② 白杖おじさん、乗馬に初挑戦!
③ 「弱視病」が治るかも?乗馬の効果
④ インタビュー「厩舎(きゅうしゃ)を燃やされても、障がい者乗馬を続けた理由」
※施設の概要・バリアフリー情報


最近、視覚障がいの友人から、「乗馬はじめたんだー」という話を聞きました。

「それ、いいかも!」
と、ネットで検索。
障がい者乗馬を行う「サイトウ乗馬苑」がヒット。

後から知りましたが、金八先生など多くのテレビ番組のロケで使われた、有名な所なんだとか。

さっそく、乗馬苑のある千葉県成田市に行ってみることに。

運転する齊藤さん。
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① 視覚障がいでも安心か? サイトウ乗馬苑のこだわり
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成田駅に着くと、乗馬苑を運営する齊藤 純子さんが車で迎えにきてくれました(これは、ありがたい!)

車に揺られること10分、無事到着。

来てはみたものの、
落ちて骨でも折らないか?
大丈夫だろうか?
と、不安で不安で、馬並みにブルブル震えるボク。
正直、「え?もう着いたんすか?」ってな気持ちです。

齊藤さんが案内してくれ、馬とご対面。

のっそり現れた馬。
・・・あれ?

ボクは勝手に、細い背中をしたやせぎすの青年みたいな馬を思い浮かべていました。
しかし、彼の背中は相当でかい。
青年なんてもんじゃない。
肥満中年おじさんです。


齊藤さんいわく、安定しやすいよう、あえて背中が大きい馬を選んでいるとか。

それと、馬の背中につける鞍(くら)も一般的なものではなく、平らになりやすいドイツ製のものを使っているそうです。

調教にもこだわりが。
馬が動じなくなるよう、以前は馬の近くにバスケットボールのリングを設置し、慣らしたりしたんだとか。

「馬は肉食動物から逃げる本能があります。だから、何かあったら、すぐ駆け出そうとする。その本能を薄くしていくことが、調教のポイントなんです」と、見学に来ていて、障がい者乗馬などを行う「PONY PLUS」の林 聖美(きよみ)さんが教えてくれました。

馬の両側には、補助の方がついてくれ、これだけ万全なので、初心者のボクでも安心でした。

馬に乗る白杖おじさん。ひざがサポートしてくれている人の肩ぐらいの高さにある。
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②  白杖おじさん、乗馬に初挑戦!
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さて、さっそく騎乗。
馬は、のしのし歩いてくれます。
のしのし感が、やっぱりおじさんっぽい。

馬が歩き始めてすぐ、「背中曲がってますよ!」と齊藤さんの大きな声が。
「はい!」と、軍隊のように背中を伸ばすボク。

しかし、また背中が曲がり、注意される・・・というのを繰り返します。
なかなか厳しい訓練です。


背中を気にしつつ、進んでいきます。

揺れもなかなかのもの。
馬の歩調に合わせ体が揺さぶられる。
手で握る部分を力強く持ち、揺れに耐えるのが精一杯です。

「これの何が楽しいんだろうか?」と、疑問を抱き始めるボク。
そのことを周りに悟られぬよう、顔面の筋力をぎゅっと引き締め、マスク下で全力のつくり笑顔を浮かべます。


サポートの人が離れ、補助なしで馬に乗る白杖おじさん。
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③  「弱視病」が治るかも?乗馬の効能
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そんなボクでしたが、進むにつれ、徐々に感じ方も変わってきました。

齊藤さんたちに軍隊式に鍛え上げられたボクは、背中を徐々に伸ばすように。
すると、今まで馬の背中しか見えていなかったのが、周りの風景が見えるように。
空、緑、近くの馬が視界に入るようになりました。
セミの声が四方から響き、別の馬の「ヒヒーン」という声がとどろく。
その中を馬と進んでいく。本当にのどかな気分になります。

昔ながらといった感じの厩舎と緑。
揺れも、機械と違い、馬が自分の力を込めて歩くことで生まれた揺れなので、心地よい。
幼いころ、両親や祖母におぶってもらったような、包まれている感覚になりました。

そうこうしてるうち、ボクの姿勢はすっかりピンッと伸びていました。
姿勢をよくし、バランスをとらなくてはいけない。
そんな状況が、姿勢をよくすることの気持ちよさを教えてくれました。

齊藤さんいわく、馬に乗ると姿勢が自然と治ったり、足や股関節を伸ばしたりするため、リハビリに良いんだとか。
弱視は姿勢が悪くなる。とよく言われますが、乗馬はそれを解消してくれそうですね。

さて、馬を降り、地面に着地。
何か爽快な気分になりました。
スポーツや温泉の後みたいな。



温泉につかるひよこ。おっさんの乗馬の姿をみあきた読者への配慮の写真と言える。
そして驚いたのが、さっきまでおじさん呼ばわりしていた馬が、急にいとおしく思えてきました。

暑い中、ボクを乗せてくれてありがとう。
ボクを包み込んでくれてありがとう。
彼のぬくもりが、ボクの心を温めてくれました。

そんな気持ちを胸に、最後に彼の首に手をやります。
ありがとう!!



・・・「ムチッ」
ん?なんだこの感触は。

ボクは勝手に犬や猫みたいな感触だと思っていました。

が、違う。
この感覚、どこかで・・
考えるボク。

そうだ!
と、自分のビールっ腹の感触に似てるんだと思い当たったのでした。

「やっぱりコイツはおじさんだったか」
と思いながら、ボクは彼と別れたのでした。





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④ インタビュー「厩舎を燃やされても、障がい者乗馬を続けた理由」
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齊藤さんに、どうして障がい者乗馬をされているのか尋ねてみました。

「以前から非行少年を更生させるため、一緒に生活する活動をしてきたんです。
馬のことを教え、牧場や競馬場で仕事ができるようにしてあげて。

で、ある時、活動を知った障がいのある子をお持ちの弁護士さんが訪ねてきました。
『障がい者が安全に乗れる馬をつくってくれ』って。
それを聞いて、やってみよう、社会貢献しようって思ったんです。
そして、数々の障がいのある子を受け入れてきました」

しかし、そんな活動を続けていた十数年前、事件が起こります。

「来ていた子の一人が、ガソリンが入ったドラム缶にライターで火をつけてしまったんです。
建物が燃え、道具も全部燃えてしまった。
乗馬でオリンピックに行った方からもらった、大事な鞍(くら)も。何もかも。

修復に何千万もかかってしまいました。
そして、本当に怖くなった。
旦那も、『もうやめようか?二人で宮城引っ込むか?』って言ったんですけどね」

齊藤さんたちが何十年もかけて築き上げたものが、一瞬のうちになくなってしまった。
それを思うと、言葉がつまります。

これが、ずっと奉仕してきた障がい者乗馬から返されたものだとしたら、あまりにむごい。
ボクはそう思ったのでした。




それでも、齊藤さんは障がい者乗馬を続けました。

「来てた子が『やめないでね』って言ったんです。
『ここやめたら、行くトコないから』って。
今でも、言われるんです。
『どこ行っても断られて、ここしか来れない』って。

それが一番大きかったですね。
それを聞いて、続けなきゃって思ったんです。

だからね、この仕事は私が生きている間は続けようって思ってるんです。

ここまで身銭を切ってやってきました。
国や県からの補助などは一円ももらってません。
正直、経済的には全くプラスになってません。
だけど、私が生きているうちは、頑張って続けていくって決めてるんです」

―――『やめないで。ここやめたら、行くトコないから』―――
その言葉に、誠実に応えるため、齊藤さんは今日も、乗馬苑を開き続けます。

※本文ここまで。



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施設の概要・バリアフリー情報
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▼施設の概要
サイトウ乗馬苑
住所:千葉県成田市荒海1039
TEL:0476-36-1717
営業: 8時00分~16時00分(夏季は馬の熱中症予防のため、11時00分~15時00分ごろは休憩)
定休:火曜日
施設HP:http://www.saitou-umaclub.com/about/
※最新情報は、必ず施設にご確認ください。

▼バリアフリー情報
・障がいのある方の乗馬実績が豊富です。
・自分で行けない方は、車で駅まで迎えにきてくれます(要事前連絡。成田空港まで迎えに行くこともあるんだとか)
・背中の広い馬・馬の背中につける鞍(くら)など、障がいのある方が乗りやすいものを選んでくれています(脳性まひの方など、馬の背中に寝そべることもできるとか)
・馬の両脇に補助の方もついているので、初心者でも安心です。
・齊藤さんいわく、股関節・ひざを伸ばしたり、姿勢を正すことが自然とできるようになるとか。
・宿泊施設・食堂もあるため、泊まり込みの乗馬体験もできます。



▼参考①
自由が丘FMTV「あんなのホンネ」
https://www.youtube.com/watch?v=S2u3gKaYfY0
※ゲストに呼んでいただき、今回の乗馬苑のこと、前回のボルダリングのことを紹介させてもらいました。

▼参考②
本文中の林聖美さんの「PONY PLUS」紹介
<事業内容>
・ポニーふれあい乗馬、障がい者乗馬、馬の出張イベントなど
<ページ>
Instagram:pony₋plus
Facebook:https://www.facebook.com/ponyplus
※この方も非常に魅力的な方でした。



▼引用
イラストとひよこの写真は、ACイラストから引用。
https://www.ac-illust.com/main/search_result.php?word_id=24&word=%E5%86%99%E7%9C%9F&yclid=YSS.1000030510.EAIaIQobChMI7duk2ayg7AIVWK6WCh2hSgLEEAAYAiAAEgIe_fD_BwE



写真で補助の方と筆者が並んでいるものがありますが、できる限りの距離をとり、マスク着用、短時間など、新型コロナ対策を行ったうえで取材をさせていただいております。


男性/30代 視覚障害

東京都青梅市出身、練馬区在住の榎戸 篤(えのきど あつし)です。
テレビ番組の制作会社で働きながら、ライターをしています。

【障がい】
・視力は左0.04、右0。
・3歳の時、保育園で転んでケガをし、弱視に。
・現在は、白杖・単眼鏡を持ったり持たなかったりしながら、ふらふらしています。

【好きなモノ】
つけ麺/お酒/建築/読書/フロアバレー/ニュース

【執筆媒体】
・障がい者ライフスタイルメディア「Media116」
http://www.media116.jp/

・働く×障がいがテーマのコラムサイト「パラちゃんねるカフェ」
https://www.parachannel.jp/column/author/163/
など。

記事のご感想など、こちらにいただけると有難いです。
uj092021@yahoo.co.jp

記事は、ひとつひとつを丁寧に、懸命に、心をこめて・・・書かせていただきます!

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