分身ロボットOriHime。モスバーガーの店員と同じような帽子とエプロンを着け、直立の姿勢をしている

     


コロナ禍で飲食業界が苦しいなか、「モスバーガーに話題の分身ロボットOriHime(オリヒメ)が設置される」というニュースを知って、7月下旬、店舗に足を運んでみました。

モスバーガーは日本生まれで日本の味を大切にするハンバーガーチェーンで、「安全・安心・健康」志向から生野菜を取り入れたメニューも豊富です。その大崎店は東京・品川区のJR山手線大崎駅から徒歩数分。大崎駅から店舗までの道はバリアフリー化され段差がなくスイスイ進めます。
ここで、2020年7月27日~8月25日までの1カ月間、平日14~18時までOriHimeが接客する実験が行われました。

OriHimeは、オリィ研究所が開発した全長23センチのロボットです。子育てや介護、身体障害などの社会的ハンディキャップにより外出困難な人の分身として、離れた場所からも人間味のあるコミュニケーションを取ることを可能にします。以前より、重度障害者が遠隔地でパイロットとして操作してカフェやオフィス受付で接客する実験が繰り返されてきました。今年に入ってテレワークが広がってからはさらに注目されています。

カウンターでOriHimeを通して注文する筆者
今回は初めての試みとして、OriHimeがファストフード店のレジで接客を行いました。
Orihimeはモスバーガーの店員と同じような帽子とエプロンを身に付けています。OriHimeのレジは、会話を楽しみながらじっくり商品を選びたい人に向けた「ゆっくりレジ」と名付けられています。

この日のパイロットは兵庫県に住む23歳の女性まやさん。レジ脇にパイロットの紹介が出ていました(上の写真の『ゆっくりレジ』という看板の写真と吹き出しです)。「好きなことはお笑いやジャニーズを見ること。脊髄性筋萎縮症(SMA)という神経性の難病のためひとりで外出が難しいですが、こんな素敵なお店で働けることにワクワクしています。モスバーガー大崎店の看板娘になれるようにがんばります!」と紹介されています。

筆者は注文しながら、まやさんにいくつか質問してみました。
「以前まやさんがパイロットとして接客したカフェに比べて、ファストフード店での接客はいかがでしょうか?」と尋ねると、「変化が多く刺激的」と答えました。まやさんのお気に入りのメニューは「とびきりチーズ」だそう。
まやさんはこちらの注文を受けると復唱し、受け付けてくれました。注文は有人レジに伝わり、そこで決済されて、筆者は注文を完了することができました。

筆者個人の経験ですが、子どもの頃は発達障害の特性から手先が非常に不器用で、レジで財布からお金を出すのに時間がかかりすぎてしまっていました。「店員さんは表向きには口に出さないけど、本当は、『早くしろ』といらだたさせてしまっているのではないか」という疑念を持ってしまったこともありました。大人になった現在は、レジでも慌てずに財布からお金を出せるようになっています。今後、ゆっくりレジで決済までできるように機能を拡張するとのことでしたので、安心して自分のペースで買い物ができそうですね。

OriHimeは多彩なリアクションを見せます。

OriHime両手を挙げた姿勢
両手を挙げた姿勢です。

OriHime左手を挙げた姿勢
左手を挙げた姿勢です。

OriHimeパイロット離席中のメッセージ
パイロットが離席中はこの表示になります。

低めのカウンターに置かれているOriHime
低めのカウンターにOriHimeがもう1台設置されています。車いすや小さな子どもなど目の高さが低い人も利用できるようにしたためです。

ソイモス野菜バーガーとサラダ・ドリンクセット
筆者が注文したのは、ソイモス野菜バーガーとサラダ・ドリンクセット。シャキシャキしていておいしいです。

この日、モスフードサービス・広報ご担当者に、お話を伺いました。
同社では人手不足の解消への対応から、セルフレジを導入したりしてきました。それと共に時代に合ったモスらしいホスピタリティの形を追求したところ、OriHimeに出会いました。そこで、まず1か月間お試しで、本社のすぐそばにある大崎店で導入されることになりました。
同社はテクノロジーを活用しながら、人ならではのあたたかみのある接客について研究を続けています。この実験では、店舗スタッフがその場にいなくても、注文時の応対を介した、人と人とのあたたかいコミュニケーションの実現を目指しています。
同社は障害者雇用率2.6%と法定を上回って雇用しており、モスグループで雇用されている障害者の中には店舗で働く人もいます。ですが働いている人の多くは軽度障害で、重度障害者は少ないのが現状です。
そうしたなか、OriHimeによるゆっくりレジの導入は、重度障害者も働ける可能性を示しているのではないでしょうか。ゆっくりレジのパイロットさんは同社の雇用ではありませんが、この実験が将来的に新しい職域での雇用につながるのではないか、と筆者は感じました。

ゆっくりレジは当初8月25日までの予定でしたが、継続が決定し、9月2日から再開しました。(9月はパイロット1人体制となり、平日のみで「14~15時、16~17時」の接客となります。新しいパイロットが見つかり次第、平日14~18時に移行する予定です。終了時期は未定だが、9月末ごろまではこのような体制で実施を継続する予定です)

OriHimeを開発したオリィ研究所は「あらゆる人たちに、社会参加、仲間たちと働く自由を。」というビジョンのもと、外出困難な人々の社会参画を目的にサービスを展開しています。
外出困難な人がテクノロジーを使って働いている光景が、街のさまざまな場面で見られるようになれば、と筆者は考えます。現に外出に困難を抱える人にとっては、同じ境遇の人が活き活きと働いている姿に励まされ「私もこんな店に行ってみたい」と思えるなど、外に出かける一歩を踏み出せるきっかけになりそうです。
OriHimeによるゆっくりレジのような取り組みが、さらに広がれば、と思いました。


モスバーガー大崎店 店舗情報
住所 〒141-6002 東京都品川区大崎2丁目1-1 ThinkPark Plaza 2階
TEL 03-5437-5011
営業時間 午前7:00~午後10:00
※クレジットカード・電子マネー使用可能です。
※コンセント、無線LAN使用可能です。
※ソーシャルディスタンス確保のため、当面の間、座席数を減らして営業しています。
アクセス JR大崎駅 新西口 徒歩2分
URL: https://www.mos.jp/shop/detail/02318/

株式会社オリィ研究所 会社概要
代表 共同創業者・代表取締役CEO 吉藤オリィ
設立 2012年9月28日
事業内容 コミュニケーションテクノロジーの研究開発および製造販売
URL: https://orylab.com/

女性/30代 発達障害

女性障害者メディア「ココライフ女子部」、障害者雇用メディア「ミルマガジン」などで執筆。寄稿、翻訳多数。大学生で発達障害と診断されるが、障害者と健常者での富士登山などを通して、挑戦や多様性の価値を信じる。海外の多様性にも関心あり。
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旅行エリア
関東, 東京都, 品川区
旅行期間
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視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 車いす 電動車いす 歩行補助具 発達障害 知的障害 精神障害 内部障害 高齢者 マタニティ 乳幼児連れ 補助犬ユーザ
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