いったいいつまで待てばいいんだ…。
ここはニューデリー駅。待てども待てども列車が来ない。1時間以上待っても目的の列車が来ない。電光掲示板に遅れの案内は出ていないが駅員さんに聞くと「遅れている」とだけ返ってくる。
インドに行く方は長時間待たされる時のためにレジャーシートを持って行こう。ホームには売店があるのでお菓子や果物を買える。私はバナナをモリモリ食べて過ごした。
列車が来たのは予定時刻から5時間後のことだった。駅を住処にするのも悪くないと思い始めたころだ。
これから行くバラナシには呼び方がいくつもあって「バナーラス」「ワラナシ」「ワーラーナシー」、あげくには「ベナレス」という呼び方もある。
インドの人に「バラナシ」と言うと通じないことがあるので「ワーラーナシー」と言うと通じやすいかもしれない。しかし、それだと日本人が「それ東北の方言?」と勘違いされてしまうかもしれないのでここでは「バラナシ」と言う。
ニューデリー駅からバラナシまでは12時間〜17時間かかる。おそらく向かう道中でも予定より長引いたのであろう。深夜にバラナシ駅に到着してしまった。駅からトゥクトゥクでガンガー近くの町へ向かったが、ここの町は迷路に入り組んでいて、予約した宿まで行くのが大変そうだ。どうしよう。
すると、どこからともなく満面の笑みを浮かべた酔っ払いが現れ、私を宿まで案内してくれた。しかも日本語で。
日本語で話しかけてくる人は90%くらいの確率でカモろうとする人なので警戒するのが普通だが、ただのいい人だった。
「じゃあねぇ♪あと僕、服屋やってるから是非来てね!じゃあね〜!」
酔っ払いのお兄ちゃんありがとう。いざとなったら酔っ払いだし走って逃げよう、とか思ってごめんね。
今回の宿は日本人宿サンタナ・バラナシ。この宿では日の出が見られるガンガーボートツアーを手配してくれる。あまり寝られないがボートツアーに行くことにする。
夜明け前の宿にボートツアーの案内人が迎えに来て一緒にガートに向かう。
ガート(Ghat)とは川や池など、水辺に設けられた階段状の施設のことをいう。バラナシのガートは沐浴や葬礼、洗濯をする時に使われる。
広島県の鞆の浦(とものうら)で雁木(がんぎ)という同様のものが見られるらしい。
夜明け前でもライトビカビカで結構明るい。ここはアハリヤー・バーイ ガート(Ahalya Bai Ghat)。1778年にインドール藩王国のアハリヤー女王が建てたもので、バラナシで初めて人名をつけられたガート。
ボートに乗って出発。写真の左に向かって進んでいく。
ボートツアーは私と案内人の二人だけだ。
ダルバンガー ガート(Darbhanga Ghat)。ダルバンガーの藩王が建てたガート。宮殿のような建物が美しい。
ラナ・マハル ガート(Rana Mahal Ghat)。1670年ウダイプールの藩王が建てた。
ディグパティヤー ガート(Digptiya Ghat)。ベンガルのディグパティヤー国の王様が建てた。髪の長い人が沐浴している。画像を拡大してまじまじと見ようとした読者には申し訳ないが、男性である。
私も思わず撮ってしまって悔しい。
パーンデー ガート(Pandey Ghat)。1805年レスラーのパブア・パーンデーを記念して表彰するため建てられた。
レスラー?
ここまで王様、王様、王様のガートとやってきてここでレスラーのガート?!どれだけ凄かったのだろうか。1805年は江戸時代。(日本地図の測量をやり遂げた伊能忠敬さんがバリバリ活動していたころ)
ラージャ ガート(Raja Ghat)。沐浴するより洗濯する場所って感じ。洗濯する時に使う平たい石板が並んでいる。早朝なので洗濯している人が少ない。
ラージャガートの続き、真ん中より左からナーラド ガート(Nrad Ghat)。
右からチョウキー ガート(Chouki Ghat)、ケーダール ガート(Kedar Ghat)、ヴィジャヤナガラム ガート(Vijayanagaram Ghat)
ガートがたくさんあってお腹いっぱいな私。
このようにガンガーの河畔には時の権力者たちがこぞってガートを建立したり、買い取ったり修繕したりしている。ガンガーが重要なものであることがよくわかった。
バラナシでは84のガートがある。ガートにはアルファベットで名前の表記があるので見て何のガートか分かる。
沐浴する人々。男性がほとんど。
まったくの余談だが、インドの女性はサリーでヘソは出すが日本のような水着姿になることはない。沐浴する女性も男とは違いサリーを着たまま行う。デリーのウォーターパークであっても女性は半袖短パン姿という出で立ちだ。
何を期待してたんだ自分は。この聖なる川で洗い清めてやろうか。
インドの神々の像がガンガーと私を見つめている。
ボートでガンガーを進んでいると花売りの少年が船で近づいてきた。せっかくだし1つ買ってみた。
マリーゴールド(ヒンディー語で「ゲンダ」)で飾られたキャンドル。花の皿は何かの葉で作られているようだった。
日の出だ。
インド神話では太陽神スーリヤ神がいて、7頭の馬が引く巨大な黄金の戦車に乗り、天空神ヴァルナが敷いた道を東から西へ走っている。
そんな幻想的な日の出。
ガンガーに祈りを込めて、蝋燭に火を灯して花を流すことにする。
流れていく花は写真に写っているカップルが乗っているボートにささやかな体当たりをしてどこかへ流れていった。
ここの流れはとても緩やかだ。
ニランジャニー ガート(Niranjani Ghat)の赤色の要塞。
ジャイン ガート(Jain Ghat)。ジャイナ教徒がお金を出し合って作ったガート。デカデカとジャイナ教のシンボル卐のマークがある。隣には聖音「ॐ(オーム)」が表記されている。
「ॐ」はサンスクリット語。後に仏教に取り入れられ、阿吽の呼吸の「阿吽」の音がそれらしい。そうと知ると親近感の近しいものを感じる。
バダイニー ガート(Bhadaini Ghat)近くに停まっていた観光用の船。
インド神話の三大神ヴィシュヌ神が巨大な魚の姿になり、世界が沈むほどの大洪水から人類の祖を守ったノアの箱舟と似たエピソードがある。(マツヤの話)
これがその時のヴィシュヌ神だろうか。
案内人さん。日本語で案内してくれる。ガンガーは車のけたたましいクラクションの音もなく、ボートを漕ぐ音だけが聞こえて静かだ。おかげで案内人さんの声も聞きやすい。
ガートも区切りがついてきたので今から西岸に連れて行ってくれる。
ここがガンガーの西岸。東岸とは打って変わって何もない。だからこそ日の出も美しく見れるのだろう。
流れ着いていたゴミ。すべて受け入れ過ぎるガンガー。
ガンガーは聖なる河だが、ひどく汚れていることは世界的にも有名だ。予防注射など備えてきてよほど入りたいならともかく、軽い気持ちで入るのはやめた方がいい。旅をしているとバラナシに行った人に出会うことがあるが、もれなく全員が下痢と腹痛に倒れている。
もし沐浴する時は補聴器や財布、携帯電話など貴重品と共に宿に置いていった方が安全だろう。沐浴しないのが一番だが。
これだけおすすめしていないのに申し訳ないが、私は実のところ沐浴に興味がある。
しかし、次の日デリーに戻る予定だから体調崩したくない。しかも私はアトピーで肌が荒れているので(不思議なことに日本にいる時より肌の調子は良いけれど)リスクが高い。
しかし、せっかくのガンガー…
そういうことで食われかけ君に身代わりになってもらおう。たっぷり浸かりたまえ。
私は両手のみ浸らせておくことにする。
そして、この数日後、下痢と腹痛に見舞われることになる。
しかし、私の手だけ罪は洗い清められた。
母なるガンガーありがとう。今日も最高の朝だ。
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