学芸員の資格を取るには大学で必要な単位を取得して実際に博物館で実習をする必要があります。博物館法でいう博物館には美術館、動物園、水族館なども含まれます。
私は実習先を美術館にしたいと思っていくつか応募したのですが叶いませんでした。とにかく資格を取りたくて、生物に興味はなかったけれど、単位取得のために通っていた大学の先生が勤務されている進化生物学研究所で実習させていただく事にしました。
実習先の進化生物学研究所は世田谷区の東京農業大学「食と農」の博物館にあります。JR山手線渋谷駅からバスに乗り「農大前」で降りて徒歩約3分です。建物が隈研吾氏設計ということで外国人観光客の姿も見かけます。入場無料で車いす対応のトイレ、エレベーターなどの設備もあります。
東京農業大学「食と農」の博物館
https://www.nodai.ac.jp/campus/facilities/syokutonou/
実習は展示会のポスターの印刷や防虫剤の取り替えなど博物館の業務全般に及びます。ちょうど夏休み期間で各地のイベントや展示会へ貸し出す珍しい昆虫標本も見られて面白かったです。実は虫は苦手なんですけれどね。
写真はゴミムシダマシの背中に宝石をつけて「動くアクセサリー」として使っていたもの。現在は展示されていません。
こちらも現在は展示されていませんがモルフォ蝶の標本です。
メインの仕事はバイオリウムという温室での動植物管理でした。バイオリウムは「食と農」の博物館の入り口を入って左奥にあります。こちらも入場無料で地域の方々の散歩コースにもなっています。
温室にはキツネザル(正式にはレムールと言います)やケヅメリクガメ、スナネズミなどが飼育されていて、私はそちらで餌を準備したり掃除をしたりしました。檻の中に入りますので動物の動きがとてもよくわかります。檻に入らなくてもバックヤード側の方が表側よりもずっと動物がよく見えます、と言われても一般の方はそんな機会はありませんよね。そこでおすすめなのがバイオリウムツアーです。近くで標本を見られますし触れる物もあります。
進化生物学研究所では研究員が解説してくれるバイオリウムツアーという有料のツアーを行っています。曜日や時間は決まっていますが、都合が合わない時は相談してみてください。
詳しい日時や申し込み方法は進化生物学研究所のホームページをご覧ください。
http://www.nodai.ac.jp/rieb/index.html
写真は実習期間中に見学に来てれた全盲の友人が解説を受けているところです。貝の成長の速度についての展示です。展示ケースから出して触らせてもらいました。
また普段は入れない展示室の裏側に入れてもらうという経験もしました。研究員の先生がバナナを見せるとサルが近くまで寄って来たので少し触れました。ただし、いつでも触れる訳ではありません。サルにも性格がありますし、元気がないとか争いが起きていて危険な時もあります。
バオバブの木や多肉植物など珍しい植物にも触れました。
進化生物学研究所では研究のためだけでなく、見学者に実物に触ってもらえるように沢山の植物を育てています。例えば葉っぱをちぎって匂いを嗅ぐとか、茎を折って断面を観察するといった体験ができるように準備しています。
バイオリウムで人気なのが大きなケヅメリクガメです。来館者のおじいさんがお孫さんに「乗ってごらん、竜宮城に行けるよ!」って言うのを聞いた時にはハラハラしましたが、幼児が乗るにはぴったりサイズなのです。
運が良ければ檻から出して入浴や食事をさせている様子を見ることができます。甲羅に触ることもできます。
友人が見学に来た時はケヅメリクガメを散歩させていました。カメの後ろをくっついて歩いてみるとどのぐらいの速度で歩くのかよくわかります。足音も聞こえます。
時には博物館前の公園で散歩させることがあります。散歩はカメの筋力維持のために欠かせないのと、博物館に興味を持ってもらうための取り組みでもあります。カメが歩き出すとあっという間に人だかりができます。
写真では研究員の先生がカメに餌をやって食べる様子を見せています。でも見学される方は絶対口元に手を出さないでください。カメが人によく慣れているために、口の近くに手を出すと何かくれるんだろうと思って食いつくのです。食べ物ではないと気が付いて口を開けますが時すでに遅し。人間の指を数本食いちぎる、なんてこともおこってしまうのです。
土日にはバイオリウムの横でマルシェもやっており、新鮮な野菜や果物が買えます。また「食と農」の博物館にはeggというレストランもあります。ニューヨーク発祥の食材にこだわったレストランです。名前の通り卵料理が美味しいです。
日本は5000以上もの博物館がある博物館大国です。有名な大規模博物館以外にも個性的な博物館、美術館が沢山あります。それぞれに思い入れのある展示をしています。
大学でお世話になった教授の好きな言葉は「好きこそものの上手なれ」だそうです。そして学芸員という仕事は人々に「好き」を見つけるお手伝いができる素晴らしい仕事だとおっしゃっていました。
遊びに行ける場所が限られる今日この頃ですが、ぜひ近くの小さな博物館へ出かけてみてください。
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